• 映画を少しばかり外から眺めてみるそのカタチ
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    『太陽(The Sun/Solntse)』レビュー
    e0039500_1484066.jpg未だ日本公開のうわさすら聞かないロシアのソクーロフ監督の映画『太陽(The Sun)』が地元の映画館に2日間だけの日程で上映されるということで昨日ハロウィーンで盛りあがる人々を背に見てきました。正直、まだ頭の中で纏まった構造が見えていないので、レビューを書くのをためらいましたが、何より日本が描かれ日本に行かない映画なのであればそれでも書く意味があるのではないかという思いに駆られ、結局書くことにします。(ネタバレ御免で書きます。)

    以前見る前にも記事を書いていますので、そちらもチェックしてから読んでもらえるとよりわかりやすいかと思います。
    映画『太陽(The Sun)』について少し考える 2005年 09月 05日
    映画『太陽』に関する「NYタイムズ紙」の見解(訳) 2005年 10月 08日
    e0039500_222429.jpg
    既にあちこちでネット上、雑誌、新聞で目にするレビューなどでほぼ統一的な見解というか、概要はわかるようになっていますが、あえてまとめると、非常に特異な映画であるということだけは確かです。監督自身が言うように、物語映画でもなく、ドキュメンタリーでもなく、昭和天皇のある日々を彼の存在というものが極めて奇異に感じられるその瞬間瞬間をスナップショットのように収めてある、それがこの映画を見に行くと「そこにある・描かれているもの」でした。つまり、英語で書かれるレビューなどは「まさにアートハウス」などと言う表現がされていますが、こういう映画の見るべきはやはりその形式、手法、構造ではないかなと思います。

    この映画で、歴史を語るのも、政治的イデオロギーを語ることも非常に難しいと思います。更に、そこに描かれているイッセイ尾形演じる昭和天皇の姿・行動・それを囲む環境がどれだけリアリティを有しているか、反映しているか、これを論じることも非常に無意味な内容になっています。ただ、見に行く側はこれらに関して非常に意識しながらスクリーンを眺めるでしょうから、もしかすると、肩透かしをくったような感覚に襲われる人は多いのではないでしょうか。これらの先入観的なフィルターをまず取ってスクリーンに客観的な眼を向けるとこの映画自体の存在価値・位置が見えてくるような気がします。

    それでは、少し、細かい点について。

    非常にTheatrical、舞台的な点について。
    暗い照明やローキー照明、抑えられた色彩、まるで能を見ているような慎重でゆったりとした動き・演技、そして多用される長回しシーンの連続、これら一見して伝わってくる視覚情報がこの映画を非常に舞台のそれと近いことを教えてくれます。逆にそれによって、そこに映し出される画が非常にリアリティという感覚を麻痺させて、シュールリアルなものにさえ見せてくれています。そこで焦点を当てられているのは、非常にイビツな時代・状況に非常にイビツな存在としてそこに居る自分に対して自問自答もしくは苦悩しているかのように見える昭和天皇の姿です。

    「覗き」の視点について。
    一番最もな表現としては、我々は観察する役目を負わされるというのが妥当でしょうか。クローズアップした表情の一部始終から、引いた画でたたずむ天皇の姿を延々と観察するのです。こうした感覚は従者などが実際に行う常に「監視するために覗く」という行為を見せることによって自然と我々の視線もそちらへ誘われるようになっています。非常に実際の姿や生活をほとんどみることができない我々の感覚は既に皇室の中を覗く心境です。表現に語弊があるかもしれませんが、ある種National Geographic番組を見ている心境にすらなりました。と、同時に常にだれかの視線に晒されなければいけないモルモット的存在と受け取ることもでき、天皇が平家蟹を解説する様はまるで箱の中の箱という図式を浮き彫りにしました。

    特異な映像について。
    ↑で述べた映像的特徴以外に、目を見張ったシーンがありました。空襲のシーンで、ナマズが火の海と化した大地の上を飛びながらこれまた魚の形をした爆弾を投下し、硝煙で完全に光が遮断された煙と炎の(CGI)映像は、まるで映像的リアリティは欠如させながらもグロテスクで、『ハウル-』のそれを彷彿とさせるかのような映像でした。そういった演出もまた演劇のそれに近いです。後は、執拗に天皇の姿をこれでもかと枠にはめて撮るので、これはもう象徴性を超えていかに抑圧された状況・心理にあるのかを伝えるメッセージ映像の連続でした。ドアの枠から窓枠、枠・枠・枠です。そしてスクリーンの中心からはよくはずされて墨に小さく追いやられるその映像も非常に顕著な映像でした。

    ナラティブの欠如と音について。
    ほとんどロジカルに因果関係を提示されて行われる物語の進行というものはありません。確かに歴史的な出来事がありますが、時間の経過や軸、そして空間は非常に曖昧です。これもまた演劇の幕間、幕間、また幕間みたいな感覚にさせられます。そして物語の連続性の欠如をまるで埋めるかのようにある「音」が執拗に録音されています。それは時計の針が時間を刻む音。もう一つはラジオのチューナーが電波を拾う音です。抑揚のないシーンの連続の中で、同じリズム、同じ周波数の音を延々と聞かされる、まるで60年代の実験映画を見ているんではないだろうかという錯覚にすら陥りました。このストレスはかなりなものでしょうし、うつらうつら来ている人たちは1人や2人ではありませんでした(苦笑)

    反戦?反米?
    扱う時代設定柄、戦争という二文字は背景として非常に強いのですが、戦争というもの自体もこの映画ではより天皇の特異性を浮き彫りにするための装置でしかないように思えました。つまり、反戦的だとかいう姿勢はあまり見て取れないというか、そこに映し出されないのです。むしろ、目に付いたのは、占領軍であるアメリカ兵たちが非常に卑しく描写される(マッカーサーは別)ということと、この映画で唯一政治的歴史的な瞬間をかもし出す、天皇が広島・長崎の原爆投下を非難した時に、アレルギー的に苦虫を噛み潰したようなマッカーサーがパールハーバーはどうなるんだと切り返すシーンなどをみても、(やはり自分の日本人としてのアイデンティティがそう見せるのかもしれませんが・・・)ソクーロフ監督は反米的な意思を織り込みたかったのだろうかと考えさせられました。

    まとめとして。
    最初に言ったように、まだまだぼやけているところが多くて、これ以上はまとまりそうにありません。全体像を捕まえるにはこれまた先日の『Takeshis'』じゃないですが、もう何度か見る必要がありそうです。最後に私的感想として、人が人であるという宣言をしなければならないというその様態はやはりナンセンスに感じます。そして、勝手な目測で最後には実際の人間宣言の録音されたものが流されるかと思っていましたが、まったく流れず、エンドロール。右下に小さく繰り返し現れる一羽のハトの画は、やはり監督は多からずとも反戦的観念を織り込みたかったのかなと思わされました。私の前の列に日本人の女の子3名が座っていましたが、途中からスヤスヤでした・・・(苦笑)気持ちはすごくわかりますが、もったいないなぁとも思いました。。。
    Depper

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    by Corin_Depper | 2005-11-02 03:15 | レビューと考察